【廊景谷シイチ】短編物語「御睦(みぼく)戦争物語」

 

御睦(みぼく)戦争物語

廊景谷シイチ

 

俺はこの高柳村で一番の美人と讃えられる高柳ゆり子に恋をしていた。

高柳ゆり子はこの村を創り上げた高柳明照の曽孫にあたり、ゆり子には3歳年下の妹がいたが高柳家は子息に恵まれなかったため、ゆり子との結婚は必然的に「高柳家」を継ぐ運命にあった。

のどかな田舎町。

小太りの郵便局員が下駄を不規則にせわしなく鳴らしながら、高柳家の真南に位置する一間半もある大きな玄関に飛び込んできた。大変だ。大変なことが起きた。

男は転がり込むように主人である高柳明彦の足元で息を荒げた。男の汗が黒い板の間に染み込む様を見て、明彦は不快感を示した。

今年の未月は一段と暑い。郵便局員の手には一通の手紙が握り締められていた。

 

土星の第八衛星イアペトゥスでは無数のレーザーガンから放たれた赤い閃光の雨が一人の少女に降り注ごうとしていた。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…お主らよってたかって4人がかりで一人のおなごを追いまわすとはのぅ」とため息混じりに山田老師は懐に手を入れた。

1メートル60センチほどの背丈の老師は、次の瞬間半径2メートルもある大扇<<巽風丸>>を軽々と振り回しレーザー光線を全てはじき返してしまった。

あやしげな黒づくめの大男たちは散り散りに去っていった。

「ふんっ」と不貞腐れながら紺色のスカートのホコリを払いながら立ち上がったゆり子は父親と同じように不機嫌極まりない表情をしていた。

「あれぐらい、ジィの力を借りなくたって何とかなったのにっ」

「お嬢は昔からそうじゃが、もうちょっとおなごらしくなればのう」

「聞こえてるわよ!モウロクジジイ!」

ひと仕事を終えた老師はやれやれというジェスチャーをとりながら、パチンと<<巽風丸>>を閉じるとシュルシュルとどこか懐へ納めてしまった。

「しかし、このまま防戦一方では我々もいつまでもつか分かるまい…」

「だから父上に何度も<<御睦(みぼく)革命>>の依頼の手紙を飛ばしているんじゃない!もう何回送っても御睦の「み」の字も起きないんだから!」

「ううむ…この山田も長く高柳家に務めておりますが、ここまで御睦の兆しが見えない戦いは稀なことですじゃ…」

「ジィ!次のヤツらが来たわよ!えッ…何アイツら…!」

300メートル先で爆発音が鳴る。グラグラと地響きが立て続けに起こる。岩肌からは得体のしれないガスが噴気し、あたり一面が大きな雲に覆われる。

これから何かしらの<<絶望>>が起こることは誰の目にも明白だった。

実際に兵力はもう底を尽きかけていた。

この戦いも当初は高柳家から5名の若将軍たちが名乗りをあげ、敵を打ち砕くと雄々しく出兵したにも関わらず、少しずつ戦力が削がれてしまった。

敗因は無色透明のレーザービームであった。

今となっては敵のレーザービームに「着色光子波」を当て赤色の閃光として視認可能になったが、この対策を編み出すために若将軍5名の命が泡沫に帰す結果となった。

ようやく攻略しかけたこの戦線に、またもや予測不能な攻撃が仕掛けられる…二人の間に戦慄が走った。

着色光子波ジェネレーターの筐体を強く握り締め相手の攻撃を見定めようとする、高柳家長女のゆり子。

山田は自らの心拍数を1回/秒に調節し間合いを測った。

レーザービームによる攻撃ならば、300メートル先での発光を視認してから弾が到達するまでに2秒かかる。

敵のレーザービームのスピードと精度は決して高くない。

 

しかし、今度の攻撃は先ほどまでとはまるで様子が違う。

 

12秒の沈黙があった。13秒に達する直前のことだった…

 

「くるッ!!!!!」

 

ゆり子の叫び声と同時に<<巽風丸>>は身を広げた。大扇に身を乗せたゆり子はふわりと地上から浮き上がった。

飛び上がると敵に狙い撃ちにされる。そして逃げ場がなくなる。

ゆり子も山田老師もそんなことは百も承知だった。しかし、彼らの認識は一致していた。

 

「下から!!大きい!!!」

一瞬だった。

山田老師の中指と薬指の第一関節のみが、ミートボールのように宙に漂った。

「その部分」よりも下は全て、黒い粘着性のある渦に飲み込まれてしまった。

 

一瞬だった。

山田の心拍数が15秒目をカウントすることさえ許されなかった。

 

 

「ジィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」

 

手を伸ばしても、老人を呼んでも、もう遅かった。

「ジィだったもの」と一緒にゆり子の目尻から塩化ナトリウム水溶液も球状となって5粒ほど落下した。

ゆり子の絶望と悲しみに満ちた表情と涙で山田は十分だった。死にゆく理由としては十分すぎるほどだった。

そのわずか0.5秒の出来事だけで山田は「身に余る光栄なり」と充実した生涯を実感することができた。

最期に山田老師が振り絞って起こした「理力」により<<巽風丸>>はゆり子を乗せて浮上し続けた。

 

そのおかげでゆり子は生きながらえることができた。

 

そして、ゆり子は書いた。

故郷である高柳村へ。父へ。恋慕の情を寄せていた男へ。

 

そう、いずれ高柳家を継承する婚約者(フィアンセ)へ。

 

これが最後の<<御睦(みぼく)革命>>依頼への手紙になるだろう…

愛するあの人が、自分と同じようにここで生き絶えないように…

私がいなくなっても、悔しいけれど妹ならあの人と仲良くやっていけるはずだから…。

私に残っている最後の「理力」を振り絞って、この手紙を届けます…。

 

父上、そして私が愛した貴方へ。

 

御睦(みぼく)革命を…必ず成し遂げて高柳村に平和を…。

 

 

 

 

御睦革命…。

 

 

 

御むつ革命…

 

 

 

おむつ革命…

 

 

 

 

 

おむつ

 

 

 

替え…

 

 

 

 

 

そう。

 

 

 

このなんかいろいろとごちゃ混ぜの無理やり感ある物語は

 

 

 

赤ちゃんがうんちのときにオムツ替えから逃げようとする男たちへ向けられた子育てサポート昔話だったのです。

 

 

うんちのときのオムツ替え、最初は大変だけど、慣れるからね。

 

 

廊景谷シイチ

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