会社作りで具体的に最初に僕がやったことは、税理士さんへの相談でした。
起業する場合、どれぐらい費用がかかるのか。いろいろお金的なことを聞きました。
それから見積もとっていただきました。起業のもろもろの手続きを行政書士さんにお願いする場合いくらぐらいになるのか?
見積金額は28万円。報酬として8万円でした。報酬の相場を調べてみると5-10万円ぐらい。なるほどこれぐらいかかるのか。このままお願いすれば煩雑な手続きをお金で解決できる。でもその分ネタが減る。ということで、行政書士さんはへはお断りしまして自分でやろうと決めました。
沢天夬の三爻
次に僕は税理士さんに「会社設立って最短でどれぐらい期間があればできますか?」という質問をしました。
「ハンコがあれば1週間ぐらいでできますよ^^」
なるほど。
そして、次に僕がやったのは「設立日をいつにするか」を占いました。
その前に「そもそもにしけいは会社設立して良さそう?」というのも占ってみました。得たのは沢天夬の三爻変。
なかなか激しい卦ですが、運命を切り開いていく感じです。ぬるま湯に浸かっていた自分を突き上げるような、そんな様子が現れていると同時に梅花心易的には金の日和。方向性は悪くなさそうです。
自分以外の大きな存在から突き上げられるようなそんな激しい卦なんですが、変爻後は兌為沢です。重卦はなんか個人的にシンプルだけどバカっぽい自分に親近感が湧いて好きだったので、これはGOサインだと思い、日取り選定へと進みました。
万年暦とスケジュール帳とペンを片手に梅花心易と気学を使いました。このときばかりは経営者さんの気持ちがよーくわかりました。日取りってどうでもいいように思えて全然そんなことはなくて、すごく他の占い師に相談したい気持ちになりました。しかし、そこはグッとこらえて日取りの選定をしました。
土用をさけていくつか日取りをピックアップしました。そして最後にひとつずつを梅花心易で占いました。
そのなかでも5月7日は沢風大過の四爻変。
これも解釈が様々なんですが、僕自身の手相や人相や性格上「兌」の性質がけっこう強いんですよね。巽も好きですけど、実際は兌っぽいところがあって。なんやかんやで食べ物に困らない余裕がある。でもなんかちょっと抜けていて、まわりに助けてもらわないとやっていけない。すごく親近感がある卦なんです。
それで、吉凶の判断よりもなんかこう「体」が兌で、フニャフニャの巽をコントロールしていくところがすごく自分らしくていいなと思って、この日にしました。
そして何よりも気学的には年月日同会というタイミング。そして法務局に朝イチで提出できれば「年月日時同会」というとても偏った四盤が並びます。これは非常におもしろい実験ができそうだと心の中で小躍りして汗をかいたのでウーロン茶を飲みました。
思わぬ刺客、ハンコ屋のおばあちゃん
まずは税理士さんに言われたように「ハンコ」を作ります。
この最初の何の変哲もなさそうなフェーズが僕にとって思わぬハードルとなりました。
ハンコはハンコでもやっぱり「印相」にこだわりたい。そう考え、過去にもお世話になったことがある市内にあるハンコ屋さんを尋ねました。
前回訪れたときから3年経っていましたが、おばあちゃんの笑顔はニコヤカでした。
入店すると、ストーブの灯油を給油していたおばあちゃん。
「あら、ちょっとまってね、今日はどうしたの?」
「あの、会社を始めたくて…社印を作ってもらいたいのですが」
「わかったよ、じゃあそこ腰掛けていてね」
とおばあちゃんはマイペース。だけど以前会った時よりもちょっとフワフワしていました。
腰掛けて待っているうちに、もう一人他の男性客が入店しました。僕の方が先に入っていましたが、話が長くなりそうだったので、先に対応してもらうよう譲りました。
「あのー、イマシゲというゴム印を5つ欲しいんですが・・・」と穏やかそうな男性はおばあちゃんに頼みます。
するとおばあちゃんはメモ用紙を取り出し、ハンコのメモをとりはじめます。
「ハンコの文字はこれでいいかしら?」
「あれ?シゲの”重い”っていう漢字、途中で縦棒が止まってますよ?突き抜けないんですか?」
「え?これで合ってるでしょ?突き抜けないはずよ?」
「え!突き抜けますよ!こんな漢字見たことないですよ!」
「え?本当?ここで止まるはずだと思うけどなぁ〜」
「ほら、スマホで入力してもこここうなってるでしょ?ねぇ、そうですよね?」
と興奮した男性客は僕にも確認を求めるよう「重」と入力されたスマホを見せつけてきました。
「そ、そうですね」
「ほら、やっぱり突き抜けますよ!!」
「あら、そうだったかしらねえ〜?あれ?お二人は同じ会社のひと?一緒にこのお店で待ち合わせしてたの〜?」
「違いますよ!別々に入ってきたでしょ!」
おだやかだった男性もキレ気味に答え、まるでハンコ屋のショートコントが始まったかのように、男性客とおばあちゃんの激しいやりとりが繰り広げられたのです。
「このハンコ5つお願いします、領収書は2つと3つに分けてください」
「はい、これで(1枚手渡しながら)」
「あの、僕イマ領収書2つに分けてくださいって言いましたよね!?」
「あら、ごめんなさいね〜」
ハンコ作成依頼の一連のやりとりに20分ぐらいかかり、思ったよりも待つことになりました。
そして、僕の番。
「あれ?あなたはいったいどういった御用?」
「えっと、あの、会社を作るためにハンコを作りにきたんですけど…」
「ああ、そうだったわね〜」
振り出しにもどりつつも、おばあちゃんと株式会社ポンのハンコを作るためのやりとりが始まります。
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「うちはね、このあたりの大手の企業さんが作りにきてくださるのよ!ほら、見て、このハンコ!いいでしょ〜?」
これまで企業が作ったハンコが捺印してあるノートを見せてくれました。
「えっと、これは何て会社名なんですか?」
「わたしも読めないけど、とにかくいいのよ〜!」
(ええ〜!読めないんか〜い!)
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「電話番号いいわね!下四桁2929なのね!やっぱり数字はこだわらなきゃね!うちもね、電話番号3939なのよ!縁起がいいでしょう!サンキューサンキューってね!」
(ちらっと店の電話番号を確認すると、0388…あれ、おばあちゃん…?)
さきほどの男性とのやりとりのように、ツッコミどころ満載のやりとりをはさみながら、なんとかおばあちゃんに株式会社ポンの社印や代表者印を作ってもらえることに。
「(彫り師の)息子の腕はいいからね〜!ちゃんと来週までに間に合わせるからねっ!」
自分で会社を作ろうと思い立ったのが4/10ごろで、すべての書類関係を「土用入り」までに済ませるためには、あと5日ほどしかなく、けっこうタイトなスケジュールでおばあちゃんにハンコを依頼しました。
気づいたら1時間ぐらいハンコ屋さんにいました。店を出ようとした僕に最後におばあちゃんが
「いろいろまちがいが多くて、ごめんね〜。わたし認知症の薬をのんでいるの。病気のせいにはしたくないけど、やっぱりお客さんに迷惑かけないようにがんばってるけど、なかなかうまくいかないこともおおくて」
と、一言。
土用までに書類作成が間に合うか?それまでにハンコは間に合うのか?
そもそも肝心のハンコがきちんとできてくるのか?
もしかして「ポン」じゃなくて「ポソ」というハンコが作られるんじゃないか?
おばあちゃんがこのあとちゃんと息子さんに伝えているか?間違えて株式会社イマシゲというハンコを作るんじゃないか?
最後のおばあちゃんの一言が、土用入りというデッドラインを抱え焦る僕をさらに不安にさせました。
本来だったら悩まなくていい、心配しなくていいフェーズなのに、最後の「認知症だからね」という一言で一気に不安フェーズへと変貌したのです。
ハンコは1本35000円、4本依頼したので13万ぐらいでした。これを全部払い終えて店を出ました。
「ここで間に合わなかったら、僕の会社設立の機運はなかったと諦めよう。やるだけやったし、あとは自分がやれることをやろう」
謎の決断をし、書類作成を始めるのでした。