過去にモンゴルで占いをしてプロパガンダ扱いされ取り調べを受けたことがありますが、時代や国によっては占いが犯罪扱いされることも無数にありました。
氷山の一角ですが、「オーストラリアでもけっこう最近まで占いは犯罪行為だったけどさ…」という論文をご紹介すると同時に、現代の日本とちょこちょこ比較してみたいと思います。
【今回の論文】女性たちの仕事:オーストラリアにおける占いの専門化と取り締まり
Women’s Work: The Professionalisation and Policing ofFortune-Telling in Australia
For other women though, fortune-telling represented a source of income, andsometimes their sole means of support. At the same time, fortune-telling was actually acriminal offence, leaving women who practised it vulnerable to police prosecution.At the same time, fortune-telling was actually acriminal offence, leaving women who practised it vulnerable to police prosecution.
(20世紀初頭のオーストラリアでは)一部の女性たちにとっては、占いは収入源であり、時には唯一の扶養手段でもあった。それと同時に、占いは実際のところ犯罪行為であったため、占いをする女性は警察に訴追される可能性があった。
The 1900–18 periodsaw a series of police crackdowns against fortune-tellers throughout every statein Australia, and the affirmation of fortune-telling’s criminal status in legislationenacted across these jurisdictions.
1900年から18年にかけては、オーストラリア全州で占い師に対する警察の取り締まりが相次ぎ、これらの管轄区域で制定された法律によって、占いが犯罪行為であることが確認された
この論文では
- なぜ占いが犯罪扱いされるようになったのか?
- 占いが女性の社会進出に寄与した面もあるのでは?
- どのように占いが行われていたのか?
といったことを考察・概括しています。
なぜ占いが犯罪扱いされるようになったのか?
どの時代・どの地域でも「同じような理由」で占いは犯罪扱いになるのですが…
20世紀初頭のオーストラリアでも、平たく言えば「風紀を乱すもの」として犯罪扱いになっているようです。
While fortune-telling was undeniably popular, it hardly met with universalapproval.
占いは人気でしたが、普遍的に人気があったとは言えません。
The same newspapers that advertised fortune-tellers’ skills alsodenounced the success they enjoyed.
占い師の技能を宣伝した新聞社は、(手のひらを返すように)一部の占い師の成功を批判しました。
Journalists around Australia commended theprosecution of a number of clairvoyants in Sydney in 1903; one paper observedthat the “industry” had “multiplied beyond the requirements of the population” inrecent years.12 Enthusiasm for what many regarded as a superstitious custom wasa distinct embarrassment to a country busily trying to establish its position as anadvanced nation.
オーストラリア各地のジャーナリストは、1903年にシドニーで多数の透視能力者が訴追されたことを称賛していた。ある新聞は、占い産業が近年「人口の必要以上に増加」していると述べていた。
多くの人々が迷信的な風習とみなしていたものに熱狂することは、先進国としての地位を確立しようと躍起になっていたこの国にとって、明らかに厄介なことだった。
働き口がない
↓
占い師なら働ける
↓
占い師増える
↓
詐欺や犯罪が増える(目立つようになる)
↓
禁止
だいたい多くがこの流れなのですが、マンパワーを産業発展に集中させたかった国としては、方向性を乱し、労働力が減ってしまうことはマイナスだったようです。
占いだけに限らず「そっちのほうが簡単に儲かるなら、工場で働かんでええやんけ」みたいな流れがあると、国の産業発展が止まってしまいます。(国内でお金はまわるんですけど、外貨が稼げなくなっちゃうんですね)
Among its opponents was thelabour movement, which perceived divination as a means of exploiting the pursesof working women, rather than as an employment opportunity for some of them.The union newspaper, The Worker, repeatedly condemned fortune-telling, evensardonically suggesting that a number of anti-Socialist delegates were at the game tokeep workers complacent through prophecies of fortunes soon to come their way.
労働組合の機関紙『ワーカー』(The Worker)は繰り返し占いを非難し、反社会主義者の代議員たちがこの占いに興じており、まもなく自分たちに訪れる幸運を予言することで労働者たちを満足させているのだと冷笑さえしていた
産業低下に加えて娯楽という機能もあるので、一極集中させて国力を高めたい人たちにとっては害悪でしかなかったのでしょうね。賭博などの娯楽も度々、人間をだめにしてしまうということで禁止されたりしています。
そんな占いを情報を発信する側も「簡単に稼げます」とか「誰でも占い師になれる」みたいな煽りをしたほうが、景気が悪いときは反応してもらいやすいですしね。
この「宣伝→増える→禁止」は占いだけに限らず、そして近代だけではなくバビロニアぐらいから何千年も行われている「イタチごっこ」なので、ある意味普遍的な手法といえます。
占いが女性の社会進出に寄与した面もあるのでは?
占いについて調査していると、必ず出てくるのが「女性差別」です。
女性の働き口がない
↓
お金を得られない
↓
経済的精神的に独立できない
という話が至るところから出てきて、占いや霊視といった商法がこれらを解消している部分もあります。現代の日本でも占い師さんの多くが女性ですし、現代の日本でも女性の働き方の問題は依然として続いているように見えます。
女性と占い人口についての参照媒体
▶️ 占いと女性一 占いの今日的特性一 種田 博之 産業医科 大学医学部人間関係論教室
▶️ 占いにはまる女性と若者 (青弓社ライブラリー)
In a 1903 article in the Fitzroy City Press entitled“Women and Work,” a female journalist insisted that women compelled to workby financial necessity should make more of an effort to seek out respectable livings,rather than taking to “palmistry, fortune-telling mediums and phrenological lines ofbusiness.”
1903年にフィッツロイ・シティ・プレス紙に掲載された「女性と仕事」と題する記事の中で、ある女性ジャーナリストは、経済的な必要性から働かざるを得ない女性は、「手相占い、霊視、骨相学的な商売」に手を出すのではなく、もっと立派な生計を立てる努力をすべきだと主張した。
「もっと立派な生計を立てる努力をすべきだ」と主張できるだけの技能や学歴があった女性は当時どの程度の割合だったのでしょうか…。鶏が先か卵が先かわからないですが、この発言自体が女性が働きにくい環境が根強く残っていたことを示唆しているようにも見えます。
It cantherefore be interpreted as part of the informal neighbourhood economy in whichwomen contributed to the family finances through economic activities within thedomestic sphere, such as the sale of home produce, the provision of lodging, andthe retailing of services such as laundering, child-minding, sewing or teachingmusic
占いは女性にとって理想的なビジネスチャンスであった。従って、占いは、家庭内生産物の販売、宿泊施設の提供、洗濯、子守り、裁縫、音楽教師などのサービスの小売など、女性が家庭内の経済活動を通じて家計に貢献するインフォーマルな近隣経済の一部であったと解釈することができる。
必要以上に煽ることはしませんが、女性の需要が多いですし、在庫や場所も必要ないので、確かに占いは女性が始めやすい仕事だとは思います。現代の日本ではネットのおかげで他の選択肢も増えていますし、占いが集中砲火を浴びて禁止になる…ということはなさそうですが、こっそり・コンパクトに始めるぐらいがちょうどいい気もします。
In 1903, the Bathurst Free Press and MiningJournal declared that “palmistry was all right so long as it [was] kept in a back street.”Unfortunately, the paper opined, the practice had “long since invaded the city’sbusiness places.”
1903年、『バサースト・フリー・プレス・アンド・マイニング・ジャーナル』紙は、「手相占いは裏通りでやっている分には問題ない」と断言した。
本当に僕が言うのもあれですけど、占いはあまり表に出ずに、目立たないようにこっそりやったほうが長く続けられるお仕事だと思います。
どのように占いが行われていたのか?
同論文では、20世紀初め頃オーストラリアでどのような占いが行われていたかも書かれています。
・水晶占い
・ティーカップ占い(紅茶占い)
・占星術
・骨相
・人相学
・爪占い(オニマンシー)
・筆跡鑑定(グラフォロジー)
・残留思念の読み取り(サイコメトリー)
・オーラ診断
など
占う場は…
・在宅での占い
・訪問型占い師
・露天や商店などいる占い師
・パーティやチャリティイベントなどでの出店
など
占いの内容は、労働者階級の女性たちの仕事・健康・感情・結婚生活上の問題などを定期的に相談する場合が多く、心理的なはけ口になっていた可能性が高い。もしくはただ単に、娯楽や気分転換として占いを楽しんでいた可能性もある。とのことです。
細かく見ていくと個人差や地域差はあると思いますが、100年以上経ってテクノロジーは発展しても、占いのやり方や内容は現代と大きく差はないのかもしれません。
同論文の後半では「占い師の社会的地位の向上」とそれに伴い「占いがきっかけとなり社会進出した女性もいる!」という話がこってり書いてあって、それはまぁそれで偏った考えなのかなーという気もしました。
興味がある人は本文を読んでみてくださいね。
ちょっとズレますが参照記事:
▶️ ニュージーランド(ロトルア)の占い事情(ニュージーランド旅行記7)
にしけい