風水って実際何なの?古典原文を辿ることで見えてくる『どこにでもあるものを活用する技術』の正体

住居選定に関する最古の記録として残っているのは紀元前1300-1046年頃に中国の殷・周時代に書かれた「卜宅ぼくたく」です。インドのヴァーストゥ・シャーストラ(紀元前3000年頃)が最古だと言われていますが、現存する文献は中世以降に書かれたものであり、真偽が問われています。

紀元前10世紀以前に書かれた「卜宅」は、指南書というよりも「どこに家を建てる占った結果こうなった」という結果が甲骨文字で書かれており、研究者たちの解釈が加えられつつ現代に伝わっています。

当時は紙も生まれていなかったため、大事なことは亀の甲羅や獣の骨に刻んで残し、それ自体が儀式・儀礼に用いられていたようです。

歷史文物陳列館
https://museum.sinica.edu.tw/ja/collection/32/

甲骨文字全文検索データベース
https://koukotsu.sakura.ne.jp/top.html

 

2年前に古代の占いを再現するために、鹿の肩甲骨を焼いて占う「太占」で実際に占ってみましたが、骨を乾燥・加工するだけでもかなり大変でした。

【太占で占いました1】検証の背景について
https://nishikei.jp/nishikei-pon-uranai/39055/

【太占で占いました2】骨の加工〜加熱準備・直接加熱法
https://nishikei.jp/nishikei-pon-uranai/39059/

【太占で占いました3】部分加熱法・部分加熱法・熱錐突き刺し法
https://nishikei.jp/nishikei-pon-uranai/39087/

 

宅地や村落の吉凶を占う、良い土地か悪い土地かを判断する…といった行為は、おそらく氷河期が終了し「定住」が発生したとされる1万2000年頃から行われていたと考えられ、証拠や史料が残っていないだけで、世界中で行われていたのではないでしょうか。

現代でも土地や家宅の吉凶を判断する際のツールとして用いられている「風水」という概念は、甲骨文字の時代から約1000年経ってようやく出てきます。晋の郭璞(276-324年)が書いたとされる「葬書」には、「死者を弔う時の最良の土地は?」といった葬儀に関する記述だけではなく、「風水」の元である「氣乘風則散、界水則止(気は風に乗って散り、水によって止まる)」といった記述が出てきます。

「風水」という概念の根本とも言える「古人聚之使不散、行之使有止、故謂之風水(古人はこれを集めて散らせず、留めて止まらせた。故に風水という)」という説明がなされた同書の中では、地中の生気(内気)と地表の水流(外気)の相互作用を重視する…という根本理念のほか、避けるべき山の形、理想とする土地の条件など、実用的な環境選定法がまとめられています。

「葬書」は単なる墓地選定の技術書ではなく、古代中国において環境や住宅に対してどう捉えていたか…を伺える貴重な史料であり、様々な解釈や実証を付与されながら現代に言い伝えられています。

 

「風水」とは何か?

 

「葬書」に記述されている風水についての記述を現代風に再解釈するために、一度漢字を抽象化してみました。

 


氣乘風則散、界水則止
古人聚之使不散、行之使有止、故謂之風水

【抽象的翻訳】
特定の空間に満ちているものは、上(外)に向かい、全体を覆うように四方にバラバラになっている。
しかし、特定の空間に満ちているものは、特定の方向性に沿って動くものによって境界が形成され、流れが止まる。
先人たちはこの法則に気付き、意図的にこれ(気)特定の空間の中に集めて、とどめ、蓄積した。ゆえにこれを「風水」と呼ぶ。

 

ポイントは「聚」と「使」という漢字が用いられている点です。この二つの漢字を用いているということは、漫然と存在している何かを意図的に制御しようとする意識的な働きが強調されていることになります。

「風」は抽象化すると、「外側から全体を覆うもの(普遍的存在)」であり、「水」はこの文脈では「自然に発生する境界性」としての機能があることを強調しており、「全体に満ちているものを、特定の流れに沿わせて制御し、一点に集めて止めること」が「風水」であると言えます。

風水という言葉のコアイメージを一般化すると、かなり乱暴かもしれませんが、「どこにでもあるものを、コントロールして集めて活用する」と言い換えることができ、これを建築や都市計画に応用・研鑽されてきたものが現代に伝わっている風水と言えます。

空気や光といったものは地球上のどのような地域にも存在するリソースであり、建築においてはこれらのリソースを窓や壁などによって適度にコントロールして活用しています。山や川もこれらをコントロールするためのツールであり、なおかつこれらは自然に発生しています。普遍的にあるものをコントロールする際のツールとして、「なるべく無理なく発生したもの」を利用している点も風水の根幹な気がします。

そういった意味で言うと、風水は建築や都市開発だけにとどまらず、組織作りや人間関係にも応用されていると思います。世の中に流通して普及している「お金」という財産を会社や組織という特定の場にとどまるようにコントロールするために、人(仕事)の力を借りているわけですが、適材適所・無理のない採用がないと継続していきません。その場にあるものをいかに無理なく活用するか。これは何かしらのエコシステムを形成する上でも普遍的なテーマになっているのではないでしょうか。

外にあるものを持ち込むのではなく、そこにあるものを無理なく活用する。そのためには「無いもの」「足りないもの」に目を向けるのではなく、「あるもの」「足りているもの」に目を向ける必要があります。風水の第一歩は、そこから始まるのではないかと考えています。

にしけい

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書いている

西田 圭一郎 (にしけい)

1987年富山生まれ。19歳から手相占いを独学で始める。化学系工学修士。商社での開発営業職を経て占いを生業に独立。専門分野は手相・易・気学・家相・風水・墓相など。著書50冊以上、世界15カ国での実占経験。テレビ・ラジオ出演多数。三児の父。

よくご質問をいただくので、手相占いの記事・書籍・講座などについてまとめました。

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