地水師は本当に「軍師」や「戦争」に関する卦なのか?

地水師という卦があります。「師匠」「美容師」「漁師」といった「師」という漢字がこの卦キーワードになるのですが、周易ではその多くが「戦争」や「軍師」といったものと結び付けられることが多く、物々しい雰囲気で解説されていたり、「軍師」のイメージから知略や戦略に重点があるといった解説も見受けられます。なぜそのような解釈になってしまうかというと、おそらく爻辞の初爻と三爻が原因だと考えられます。

初爻:
師は出るに律をもってす。否らざれば臧きも凶なり。律を失えば凶なり。

この「出る」を「出陣」「出兵」という風に解釈している解説書が多いです。さらに三爻変です。

三爻:
師あるいは尸(かばね)を輿う、凶。

この「尸(かばね)を輿う」という部分を「大漁の死体が積み上がる=采配に失敗する」と解釈し、戦争と結びつける論者が多いようです。

また、「師」という漢字の成り立ちに「兵士たちのために肉を切り分ける象形から、采配を意味するようになった」という説を採用している人もいて、どうしても「地水師=戦い」と結び付けたい説が多いです。しかし、卦辞には戦争や軍師といった記述は一切書かれていませんし、象伝は下記のように述べられています。

象に曰く、地中に水有るは師なり。君子もって民を容れ衆を畜う。

意訳すると、「地水師は地下水である。特定の範囲内に不特定多数の人や物を保持する」です。

「師」という漢字の原義を抽象化していくと、「特定の範囲内に不特定多数の人・物・情報を取り入れて保持すること」です。「漁師」は「漁に関する知識や経験を蔵している人」を指します。そして、「師」と呼ばれる人には「弟子」や「生徒」といった人々が集まります。二重の意味で「特定の範囲内に不特定多数の何かが集まっている」のです。

現代の具象で置き換えるなら、「師」は「都心部」や「ドラえもん」と言えるでしょう。不特定多数の人々が特定のエリアに集まっている都心部、有象無象の道具を持っているドラえもんが「師」の漢字の原義に近いです。必ずしも戦争や軍師ではありません。

上述した「尸(かばね)」も確かに「屍(しかばね)」という漢字に用いられていますが、「履」「屋」といった漢字にも用いられています。「尸」は「特定の範囲を上から覆い囲い込む」という原義があり、「輿」は「上に向かって盛り上がる・溢れ出る」というようなコアイメージがあります。「死体が積み上がる」という風に解釈することもできますが、「覆い隠すように囲んでいた範囲から、外部に流出する」という風に言い換えることができます。つまり、「師」の「外部から取り入れる」とは逆の働きをしているため、「凶」だと言っているわけです。

易経はあえて特定の漢字を用いているケースが多いです。漢字の意味を抽象化していくことで韻を踏むような高度な言葉遊びをしていたりします。しかし、どうしてもイメージしやすいように「具象」に落とし込まれてしまうケースが多く、その具象が独り歩きして伝わってしまうことが多いです。確かに具象はイメージしやすいのですが、誤解も招きやすいです。何千年も前に書かれたものを現代で活用しようとする場合、これらを特定の具象イメージのまま使うと無理があります。なので、なるべく抽象化した表現で「理解」することが大事ですし、そのためには丁寧に「漢字の原義」を一文字ずつ追っていく必要があります。

易経は、周易講座4期で解説しております。気になる方はチェックしてみてください。

にしけい

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書いている

西田 圭一郎 (にしけい)

1987年富山市生まれ。化学系工学修士。商社の開発営業職を辞めて、占いを生業にしています。趣味は読書と旅とポケモン。甘酒と文章を書くことも好きです。三児の父。詳しくはこちらから。

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