周易講座四期がスタートしました。

毎回思いますが、易の翻訳・解説本は「理解しようして・理解してもらおうとして」書いている本がほとんどありません。ゼロに近いかもしれません。

例えば、乾為天の卦辞には「乾は元(おお)いに亨(とお)りて貞(ただ)しきに利(よろ)し（乾元亨貞利）」という文言が出てきますが、これどういう意味かわかりますか？漢字の意味はなんとなくわかるし、なんかよさそうな雰囲気？ぐらいしかわからない方が多いのではないでしょうか？

元亨貞利という漢字は乾為天以外でも何度も出てくるのですが、多くの翻訳解説書籍の説明を読んでも、何のことを指しているのか全くわかりません。なぜなら書いている人たちが理解しようとしていないからです。

そして、そういった何のことを言っているのかわからないフワッとしている解説書をもとにブログやセミナーなどの媒体が作られるので、ふわっとしたものからふわっとしたものを生み出すという最悪の伝言ゲームが起きています。さらにそういった情報媒体をもとにAIも検索をかけてそれっぽい答えを作り出すので、もう原文が何を指しているのか全くわからない状態になっていくんですね。

「元亨貞利は君子（偉い人）が実践すべき四徳だ！」といったことが書かれているのですが、これだけだと何をしたらいいのか全くわかりません。

この四徳について説明している文章もあって、「元は善の長なり。亨は嘉の会なり。利は義の和なり。貞は事の幹なり。君子はこの四徳を行う者なり。故に乾は元亨利貞と」と書かれています。どうですか？わかりましたか？さらにわからなくなった方もいらっしゃるのではないでしょうか？

これだけだと、ふわっとなんとなく「人の役に立つことをやればいいのかな…」ぐらいになってしまいますし、易経を帝王学と絡ませた経営者向けのセミナーや書籍では「四徳はすごいことだ！人の上に立つ人間はこれを大事にしろ！（ワー！）」と息巻いているのですが、実際のところ漢字の意味を辿ってみると、意外と四徳は多くの人たちが既に実践していることであって、意外と君子はそこらじゅうにたくさんいることが分かります。

小学生でもわかるように翻訳した四徳について簡単に述べておきます。

「元」は精神的な余裕をもつこと（柔軟性）
「亨」は意思疎通を図ること（建設的なコミュニケーション）
「貞」は人とほどほどに距離を取ること（バランス感覚と尊重）
「利」は自分ができることを精一杯やること（全体のための個人の振る舞い）

になります。

完璧にできているかどうかはわかりませんが、普通に会社に行って他の人たちとコミュニケーションをとって、自分の役割や仕事を全うしている人であれば、既に「亨」「貞」「利」は達成しているんですね。

「元」は「たっぷりあること・満たされていること」を指すのですが、満たされているか（精神的な余裕があるか）どうかは境界性の柔軟性によって変化するので、柔軟性が重要になります。対応するための余裕みたいなものは固定ではなく柔軟性から生まれるからです。

外国人に道を尋ねられて案内したり、旅先でお土産を買ってきてみんなに配ったり、電車の中で席を譲るだけでも、精神的な余裕がないとできない行為なので、意外と実践している人は多いのではないかなと思います。

この「元」の「たっぷりあること」という意味が「金銭的・経済的に豊かである」という意味ではないんですね。なぜならたくさんのお金をもっていたとしても、精神的に余裕がない人もいるからです。もちろんたくさんお金をもっていて精神的に余裕がある人もいますが、「元」は「充足感（元気）」のようなニュアンスなので、物質的な豊かさという軸は関係ないんですね。

こうやって、易経に書かれていることを「ふわっとしたまま」にしておくのではなく、きちんと漢字の意味を追っていくと、「なーんだそんなことか」というものが多いですし、きちんと理解できれば易経の普遍性みたいなものも見えてきます。難易度が高すぎるマニアックな行動を推奨するような本だったらここまで広まらないと思いますし、書かれていることが「普通」だからこそ、現代でも生かせるのではないかなと思います。

周易講座は今回で四期目になりますが、「きちんと理解してもらうため」の講座です。これが僕なりの「利」だと思って取り組んでいます。受講される皆様、１年と半年ほどになりますが、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

にしけい