僕のばあちゃんの話。
僕が中学のときぐらいに倒れて亡くなったばあちゃん。親父の母。今思えば、ばあちゃんはめちゃくちゃ占いが好きでした。僕が小学生のときに「自分の名前の由来調査」の宿題が出ました。
他の子たちは「健やかに太く生きて欲しいという願いを込めて”健太”とつけてもらったそうです」と報告する中、僕の名前は「占い師に1万5千円払って立派な名前をつけてもらったんだよ!」というばあちゃんの証言通り、ばあちゃんおかかえの占い師さんにつけてもらったらしい。
当時は子供心に「僕の名前には”両親の願い”みたいなものが込められていないのか」と少し悲しい気持ちになったりもしたけど、不思議なもので今はその占い師側で生きています。本当に不思議な話です。
ばあちゃんは洋裁の仕事をしていました。ドレスとか衣装を注文を受けてから作る職人さんでした。西田洋裁店。ばあちゃんの仕事部屋にはところ狭しと足踏み式のミシンがあったり、マネキンや裁縫道具が普通に家の中にあったり…。
子供のころはばあちゃんの仕事場で針に糸を通したり、裁縫道具をおもちゃに遊ばせてもらったりもしました。ばあちゃんの友達が仕事場にきてお茶やお菓子をくれて、餅をもらったらガスストーブでそれを炙って食べたり…。そんな感じでばあちゃんにはいろいろ可愛がってもらった思い出があります。
あるとき店先の玄関を掃除しながらばあちゃんは「あきおちゃん、何しとんがやろうね…(何してるんだろうね)」と険しい顔をしていました。あきおちゃん?と思った僕は母に「あきおちゃんって誰のこと?」と聞いてみた。
どうやらそれは親父のことだった。でも、親父の名前は「まさ」なので一文字もカスってない。それでばあちゃんに理由を聞いてみたところ、どうやら親父の名前は自分たちで考えてつけたけれど、しばらく経っておかかえの占い師さんに「画数が悪いから、明生(あきお)だったらよかったのに」と言われたらしく…。
でももう名前は変えられないからしょうがないから呼ぶときだけでも「あきおちゃん」と呼んでいる…ということでした。でも、家族や親戚の中で親父のことを「あきお」と呼ぶのは後にも先にもばあちゃんだけでした。
実の母親から本名とは違う名前、しかも「こっちの方が画数がいいらしい」という理由で「あきお」と呼ばれ続けた親父はどんな心境だったのだろうか。
自分が自分の名前だと認識していない名前だと反応できないですよね。僕も過去に初対面のお客さんから「たけぽんさんですよね?」と声をかけられて反応できませんでした。最近は本名で呼ばれると何か他人のような気がして違和感が出てきました。
今度、帰省したら親父を「あきおちゃん」と呼んでみようと思います。
にしけい