【紀貫之ハウスを見たかった】五年で千年が過ぎたかのような家が生まれる閉鎖系のメカニズム

下記は、紀貫之が土佐での仕事から自宅のある京都にもどってきたときの描写です(土佐日記)。

 

聞きしよりもましていふかひなくぞこぼれ破れたる。家を預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。
(聞いていた以上にひどく、言いようもないほど壊れて破れている。家を預けていた人の心も荒れていたのだった)

 

池めいてくぼまり水づける所あり。ほとりに松もありき。五年六年のうちに千年や過ぎにけむ、かた枝はなくなりにけり。いま生ひたるぞまじれる。
(池のようにくぼんで水がたまっている所がある。そのほとりに松もあった。五、六年のうちに千年でも過ぎたのだろうか、片方の枝はなくなってしまった。新しく生えたのが混じっている)

 

大かたの皆あれにたれば、『あはれ』とぞ人々いふ。
(だいたい全部が荒れ果ててしまっているので、「ああ、哀れだ」と人々は言う)

 

家相や墓相といった建物やお墓を見るお仕事をしているからということもありますが、ここ数年「手入れされない家やお墓をどうするべきか?」というご相談が増えています。

・誰も住んでいない家をどうするべきか
・誰も管理できないお墓をどうするべきか
・どうにかしなければならないと分かっていながらもどうしたらいいかわからない
・どこから手をつければいいのかわからない
・自分が手をつけていい立場なのか迷う
・自分がやるべき立場だとわかっていても気が進まない
・片付けをしているけれど、心が折れそうになる

残すべきか、手放すべきか。修復するべきか、取り壊すべきか。誰が管理するべきか、どこまで責任を負うべきか。正解を見出せない方も多いです。

 

特異的なモノほど劣化が早い

 

家やお墓は「方向性の凝集と固定」を生み出す装置です。特定の方向性に向かう傾きが大きくなると、特異性が増大していきます。僕は「特異的なモノ」ほど、崩壊や劣化が早くなるという法則があると考えていて、おそらく「特異性」は「閉鎖度」を高めるからだと考えています。

エントロピー増大の法則は閉鎖系で起きます。閉鎖された場において、乱雑さが増大していくという法則です。建物やお墓は物質としては開放系です。雨風にさらされて朽ちていきます。しかし、僕が言う「閉鎖度」は、「関わりやすさ」「取り扱いやさすさ」という点での「閉鎖度」です。

 

外からの流入が困難になる

 

例えば、少し変わった家電を買うと、修理の際の部品の取り寄せや、アフターサービスを受けるまでに時間がかかります。それと同じように、特殊な工法や材料で作られた建物は、対応できる職人が限られます。シンプルで一般的な仕組みで作られた家電や建物であれば、修理や手入れのハードルは下がります。

また、家や建物も「住んでいる人の特異性」が如実に現れると、次に住む・利用する人の選ぶ、限定性の高い建物になります。例えば、家の外壁が「ショッキングピンク」だったとしたら、住む人を選ぶはずです。二世帯住宅なども住む人を選びます。著名建築家の実験的住宅で、後に維持困難になったり、住み手が変わった途端に大幅改修や取り壊しになったりする例もよく耳にします。

特異性が高い建物は、修理や手入れという観点でも人を選びますし、新しく誰かが入居する際も人を選びます。建物は「結界」であり、「選別」という機能がありますが、特異性が高い建物は「人を選ぶ」という観点で、誰も入ってこない「閉鎖系のような状態」になっていくのではないかと考えています。

 

特異性の弊害

 

「自分しか住めない」「これが自分なんだ」という特異性を高めれば高めるほど、人が離れていき、扱いにくくなり、崩壊や劣化が早く進みます。「他者と自分は違う」ということを示そうとすればするほど、人が離れていき、継続できなくなるのです。

手入れや処理に手を焼く案件ほど、「方向性の凝集」の度合いが強い場合が多いです。住居に限らず、公共の建物や社屋なども同じですし、お墓に関しては建てた人のこだわりや、そのお墓に携わる人たちの世代を超えた対立のようなものが起きていることもあって本当に厄介です。こればかりは依頼者の方に同情を禁じ得ない場合もよくあります。

残されたものの片付けや手入れが大変なんだよな…と感じている方はできていない自分を責めたり、みんなもやってるから自分もこれぐらいやらなきゃと考えたりするのではなく、まずは「誰かの方向性の凝集物」と向き合おうとしている自分を「えらい!」と認めてあげてください。

建物やお墓は「方向性の凝集と固定」という作用のほかに、「境界性」というものを生み出す装置でもあります。この境界性をどう取り扱うのか。対立や論争や葛藤も、基本的に「境界性」によって生まれます。あなたの閉鎖系が少しだけ開放系に向かいますように。紀貫之の家はどんな家だったんでしょうね…孫の代で途絶えたと言われていますし、お墓なども気になるところです…。

にしけい

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書いている

西田 圭一郎 (にしけい)

1987年富山市生まれ。化学系工学修士。商社の開発営業職を辞めて、占いとWeb開発などを生業にしています。趣味は読書と旅とポケモン。文章を書くことが好きです。著書は50冊以上。三児の父。詳しくはこちらから。

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